2008/05/03 (祝) 血液培養について
入院中、急に38度を超える発熱(pyrexia、fever)があると、ナースが慌ただしく動き出し、すぐに先生が採血に来られる。毎回このパターンだったので、この緊急採血はナースに任せられない、先生の役目らしいとそのうち理解した。それも、朝の定期的な採血と違って、血液培養の為に必要と言って、たっぷりと(確か)2本も、専用の大きな瓶に採られるのである。そして、即座に抗生剤(antibiotic)等の点滴が追加され、その中には6時間おきに点滴するものもあるので、例えばせっかく治療の点滴から解放されていても、一旦抗生剤点滴が始められてしまうと、その時間には病室にいなければならないので、余分なストレス材料が増えて、嫌なものであった。また、抗生剤が効かず(合わず)、通常の血液検査で調べているCRP(C-反応性蛋白、炎症反応を見る:C-reactive protein)値が全然下がらない時は、抗生剤の種類が途中で変更されたりする事もあった。
こんな感じで、いつも即座に抗生剤等の点滴を開始しているのに、すぐに結果が出ない血液培養(ナース達は『血培(けつばい)』と短縮して呼んでいる)を何故するのだろう、培養(culture)というのに何故こんなに血液を一杯採られるのだろう(培養なら血液も少しで十分じゃないのか)と、不思議に思っていた。そして、自分の場合、大抵数日後に、何も検出されなかった等と言われていたと思うが、それでも一旦、抗生剤の点滴が開始されると、ある一定期間は点滴を続けなければならなかった。
これに対する回答にあたる内容が、ある医学新聞に出ていた。これは血培の検査基準というか、ガイドラインの事とかが書かれた記事である。
まず、血液培養は、菌血症(bacteriemia、bacteremia、bacteraemia)の正しい診断の為に必要で、それによって血液内の菌(bacteria)が何かを調べて適切な治療を行なうものだそうだ。この血培から菌を検出する為に最も重要なポイントは、血液量で、多ければ多いほど菌の検出率が高くなる、とあった。ここで初めて、自分の勘違いに気が付いた。つまり、血培という言葉だけのイメージから、血液を培養するのだと思い込んでいたが、血液の中にいるだろう菌(発熱を引き起こす原因になった菌)を培養して増やし、それが何かを調べる検査だったのだ(…だと思う…)。つまり、血液量は血培の検出感度を最大化する為の唯一、かつ最大の重要要素で、2セットの血液合計量は少なくとも20ml、出来れば40ml欲しいだそうだ。
次は、何故、何本も採血するのかという点だが、これは皮膚に常に存在する菌等が採血時に間違って血液培養の血液に混じってしまう危険性がある為、もし培養結果が陽性と出ても、1ヶ所から採血しただけの結果では、間違って混入してしまった菌なのか、本当に血液内にいた菌なのか分からない。その誤判断を避ける為にも別々の部位(出来れば3か所)から採血して、調べる必要があるのだそうだ。
それから、血液内の菌とか微生物は、発熱後、時間が経つほど検出率が低下するのだそうだ。菌血症には3タイプあり、「一過性の菌血症」(一般に15-30分以内に解消される)、「持続性の菌血症」(これは常に菌が流入する為比較的発見され易い)、そして病院で最も良く扱うのが3つ目の「間欠性の菌血症」で、血液に予測不能な菌の流入があるらしい。これも15-30分以内に菌の排除があるというから、体温が上昇し始めてから1時間や2時間も経っていては検出率も落ちてしまうという事だ。体温が38度以上になってから血培というは遅いとも書いてあった(ただ病院のシステム上、38度以上と規定している所が多いらしい)。発熱したとわかったら間髪入れずに先生が採血に来られる理由は、この事から理解出来た。
私は幸いにも、急な発熱から重篤になる事はなかったので、何故先生達は大騒ぎするのかと漠然と見ていた記憶があるが、場合によっては命にかかわる事もあるという。死亡リスクに関しては、先ずは総合的な諸症状等から判断して初期治療(点滴等)を実施し、次に血液培養の結果に基づいて、もし初期治療の種類が不適切と判明すれば、そこで適切な治療に変更するだけで、死亡率がグッと減るのだそうだ。その新聞に出ていたグラフを見ても、初期治療の判断が実は不適切であるのに、それに気がつかない(血培も行なわない)場合は、死亡リスクが約2倍以上に増えていた。
あと、採血の至適タイミングという所に書かれていた事を参考までに転記しておく。
・ 血培の採血は悪寒(chill)や発熱が認められたら出来るだけ早期に行なう事。決して遅れない事(発熱後の時間経過が長い程、微生物検出率が低下する)。
・ 血培は5分以内の間隔で採取すべき。細網内皮系により一過性及び間欠性の菌血症の状態は15-30分で処理される。
参考:CLSI (Clinical and Laboratory Standards Institute)
入院中は血を採られ続ける事にうんざりしていて、発熱しても血を採られる事にかなりストレス(stress)を感じていたが、全てにちゃんと理由があって、患者を守ってくれていたんだと、改めて感謝である(とはいえ、再度同じ状況に遭遇して血を採られる事になったら、きっとストレスを感じるだろうなとも思う)。
今回再認識した事は、たかが発熱と侮るなかれ、であるか。
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