2008-11-30

2008/11/17 (月) 通院記録3 肝臓のGVHDに瀉血?

 私の場合おおむねGVHD(移植片対宿主病;graft-versus-host disease)の症状は免疫抑制剤(immunosuppressant)を服用している限り、軽い方で経過している様だ。その一方で、GVHDが全くと言って起こらないよりは、軽いGVHDが起こっている位の方がGVL効果(graft-versus-leukemia effect)というものが起こって、完全に治る(根治)確率が高くなるという臨床結果があるそうだ(※GVHDは本人以外の血球(造血細胞)が移植された事によって、移植された側の患者自身の体が異物と認識され攻撃される為に、患者の体に起こる症状の総称なのだが、免疫抑制剤を飲む事によってその攻撃力を弱めている。GVHD症状の軽い患者ならば、早めに免疫抑制剤を減らして(要するに軽めのGVHDが起こる程度に調整して)、移植した血球に、残存しているかもしれない白血病細胞(腫瘍細胞)もやっつけて貰って根絶してしまおうという考えがGVL効果)。先生はその効果を期待して、早く免疫抑制剤を減薬、そしてゼロにしたいと考えておられるのだが、減薬も最終段階に至って、私の肝機能(liver function)が敏感に反応してしまう(肝臓にGVHDがきつく起こってしまう)ので、現在、1日50mgからなかなか減らせないでいる。焦って減薬しても、白血病細胞(leukemia cell)よりも先に私の肝臓がやられてしまっては元も子もないから、仕方がないが、前回先生から頂いた「幸い、再発(recidivation)ではないので、いいですね」といった内容の言葉に、妙な感慨を覚えている。

 さて、今回の肝機能検査結果(GOT、GPTはまだ中程度に高いながら、全般に下げに入っている)を一緒に確認した後、不意に先生が次の様な話を始められた。

 今月、先生は色々な学会に参加されていたのだが、その中の報告の一つに、慢性GVHDで肝機能が悪化する原因に鉄が関与しているというのがあったそうだ。それならば瀉血(bloodletting)は本当に有効な方法の様に思われると先生(よく分からないが、確かこんな感じの内容だったと思う)。

 鉄関連の血液検査には、鉄(Fe)やフェリチン(ferritin)、UIBC(不飽和鉄結合能:Unsaturated Iron Binding Capacity)といった項目がある。私の肝機能検査値上昇時には時々先生がこの検査項目を追加している。肝機能値が異常に高くなった時等は、フェリチンの値も異常高値を示しており、鉄が肝臓に負担をかけているらしい事を、昨年末からの肝機能値異常高値の時に先生が説明されておられた。そしてなかなか改善しない私の肝機能値、下がらないフェリチンの値を見て、「恐らく瀉血をすれば、この値も一気に改善するのではないか」という話をされていた。要するに鉄が肝機能値異常高値の原因の一つなら、血を抜くだけで効果がある筈だというのだ。もう少し詳しく説明すると、血液の赤い色には鉄分が多量に含まれているので、体内で鉄過剰(フェリチンが高値)ならば、血を抜くのが手っ取り早く鉄分(フェリチン)の値を下げる方法だという。そして、肝臓に負担をかけている可能性のある鉄分が減るので、肝機能もより早く回復に向かうだろうという考え方だ。どれ位抜くのかというと、献血(blood donation)並みの量で十分という。

 瀉血といっても、献血同様、単に血を抜くだけなのだという話を聞いて、それならば是非抜いて下さいというと、瀉血という治療行為は、特定の病気にしかしてはいけないという決まりがあるらしく、確か、私に瀉血をすると保険適応外になるとか何とか言われたと思う。「保険適応外で高くついてもいいので、本当にこの肝機能値が改善するかどうか確かめてみたいのでして貰えませんか? それに今ならば、瀉血による変化が出るかどうか、顕著に分かる位の高い値ですよ」といってみたのだが、どううしてもダメで、治験(clinical trial)という形を取らねば出来ないとか何とか……、それでは治験でいいので、と患者である私の方が、更に食い下がって粘ってみたが、実現する事は無く、時間をかけて肝機能値改善を待つ事となったのだった。(参照:『2008/01/11(金) フェリチンの結果』)

 ところが、今回、難攻不落だったKB先生の方から「次回フェリチン(鉄)の血液検査もしてみて、高かったら瀉血をしてみますか」と言われるのである! 学会で刺激を受けられたのだろうか? 珍しく積極的である。こんな機会はめったにないので、試して確かめてみたい、という気持ちが、またもふつふつと沸き上がる。しかし私の記憶では、一番最近調べたフェリチンの値は、年始の結果と比べると、かなり下がってきていた筈だったので、一体どれ位の値でフェリチンが高いと見なすのかを訊いてみると「1,000以上……、場合によっては500以上でも高いとみる」、と言われる(この返答のされ方あたりにも、瀉血についての意欲を少し感じる)。しかし、今日の肝機能検査結果から、現在既に回復に向かっている(しかも今回は原因が分かっているので、前回程悪化する前に手を打っている)ので、果たして、次回500以上あるかどうか分からない。500以下の方が検査結果としては(当然患者の健康上は)いいのだが、せっかく先生が試してみられる気になられているのに、試す事が出来ないとしたら、それも少し残念である。

  「前回の高かった時に、試しておけば良かったのに」、というと、普段、血液の病気の患者に対しては輸血というのはあっても、血を抜くという、いわば通常の治療とは逆の行為である「瀉血」という発想は、患者さんの気持ちを考えると、なかなか難しいものがあって、ためらってしまう(それ以外の治療法を検討する)のだそうだ。今年初めの時、あれだけ先生に、抜いてみて下さい、といった私って、ちょっと変な患者?!

2008/11/17 (月) 通院記録2 今年の予防接種は見送り

 今日の病院は非常に混雑していて、午後になっても珍しい位、待合席に人が一杯いた。私は午前中に耳鼻咽頭科を受診していて、午後は主治医によるいつもの診察があった。体調はいつも通り、喉奥から出てくる白い物体は膿栓(Tonsillolith)というもので、その一部を菌検査に回された事と、嚥下異常関係なのか、甲状腺エコー検査を受診する事になったと伝える。後者に関しては、BMT(bone marrow transplantation;骨髄移植)によって、甲状腺(thyroid gland)機能低下が起こる事もあるとKB先生。へえー、ほんまにこの病気になってからなんでもありやなぁ……と心の中で感心する。口内の膿栓は無害なものらしいと分かったので、前回先生が言っておられた様に、ミコシストカプセル(Mycosyst)を再開するのかと訊くと、中止のままにするとの事。

 話はそれるが、全く自分の興味から、免疫抑制剤(immunosuppressant)の血中濃度であるシクロスポリン(cyclosporin A;CyA)の値は現在どうなのだろうか調べて欲しいとお願いしていた。退院後、免疫抑制剤が初めて25mgに減らされて以降、測定値は25未満となり、測定する必要が無くなったと言われ、以来ずっと測定していなかったが、免疫抑制剤が再々度50mgに増えたので、25以上になったのだろうかを知りたくなったからだ。去年の記録を見ると、1日50mgだった5/14から10/1迄の値は40~60位が多かった。そこまで増えているだろうかと今日の結果を見てみると、25未満であった。去年との(服用薬の)違いを考えると、ミコシストも飲んでいたか(去年)否か(現在)である。以前の先生の話によると、ミコシストは免疫抑制剤の効果を強める事があると聞いていたので、私の体内でその様な作用をしている可能性があるのかもしれないと、更に少し納得した結果であった。ただ、免疫抑制剤を再開する度に、以前とは違った新たなGVHD(移植片対宿主病;graft-versus-host disease)らしき症状がおこったりしているので、本当は一概に結論を出せないのだが……(これはあくまでも自分での解釈であって、主治医の解釈ではない)。

 さて、今回の肝機能(liver function)検査値は、GOT(AST)やGPT(ALT)等が、まだ中程度に高いとはいえ、全般に減少に転じており、免疫抑制剤増量(1日25mgから25+25=50mgに増量)の効果覿面(てきめん)である。となると、私の現在の体にとって、免疫抑制剤(immunosuppressant)の量は今くらいが丁度良く、均衡を保っている事になる。減薬はもっともっとゆっくりとしていかなければならないだろうが、取り敢えずは肝機能検査値が正常に戻ってから検討していく事になると思うので、それはまだ先の話になる。

 ところで、去年は丁度免疫抑制剤を完全中止にした狭間(約2ヶ月間の間)にインフルエンザ予防接種(protective inoculation;prophylactic vaccination)を受けた(年末になって肝臓のGVHDの為に免疫抑制剤を再開した)が、今回はまた免疫抑制剤を服用していて受けられない(接種しても、免疫抑制剤の影響で、ワクチンが定着し難いという)。免疫抑制剤が1日25mgを維持した状態だったら、ワクチン(vaccine)の効き目は悪いだろうけど、受けてみたらと言われていたが、肝機能悪化の為その免疫抑制剤の量が倍に増えてしまったからだ。一方で、新型インフルエンザ爆発懸念のニュースが流れている。

 そこで、万が一インフルエンザ(influenza)に罹った時の心得を先生に訊いてみた。「インフルエンザならば、即、タミフル(Tamiflu)を飲む事(1日でも一刻でも早く)」と言われる。薬の服用は早ければ早いほど良いそうである。その場合、すぐに近くのお医者さんに診て貰えばいいという事も確認する(引っ越してしまったので、通院している病院は遠いので)。タミフルは特効薬ではあるが、色んな副作用(side effect)のニュースが流れているので不安でもある。飲まずに済む様、インフルエンザに罹らない様にこの冬は一層注意したい所である。

 次回の通院日は12月下旬になったので、欠勤延長の為の診断書を作成して貰った。延長すると決めた場合、次回通院時に作成して貰ってからの提出では間に合わないからである。前回作成して貰った時点(9月)では免疫抑制剤が25mgであったし、このままいけると自分でも思う一方で、念の為に6ヶ月延長分の診断書を書いて欲しかったのだが、先生はもう復職してもいいのではないかといわれ、3ヶ月は休職する必要がある旨の診断書を貰っていた。その時から免疫抑制剤が50mgに増えてしまい、薬で免疫力も弱めている状態(程度の差こそあれ、風邪(cold)とかインフルエンザに感染(infection)し易い状態、予防接種も受けられない状態)で、冬の気密性の高い職場へ戻る事に不安を感じている。少々の風邪くらいなら、みな出勤する職場で、かつての自分もそうであった。だが、今の自分が職場復帰したら、周囲の風邪に感染しない様に一層気を付けなければいけないだろう、或いは自分がいる事で職場の仲間に気を遣わせる事になるのではないか? 等など、どうしたら良いか未だ悩んでいる。12月の初め頃にでも、この診断書も携えて、欠勤を延長するか否か、どの様な形で復職していけば良いか等、ボスと産業医に相談しに行こうと思っている。

 診察の最後に、少し旅行に出るので、その間はまた飲酒解禁にすると先生に伝える。実は今年6月にドタキャンとなった、きょうだいで遠く離れた北の大地にあるご先祖さまの墓参りを兼ねた旅行を今週する事になっている。前回ドタキャンで、私一人が行く結果となり、大事な用事も私が代わりに済ませておいたので、次の機会は2~3年後になると思っていたのだが、今年の母の命日に3人で集まった折、改めてこの話が決まったのだった。きょうだい3人だけの旅など、人生初の出来事であるが、まさか1年に2回も北へ旅行するとは思ってもみなかった。しかし復職したら、のんびり旅行などと予定を組むのも難しくなる(休職が長い為、年休が無くなっている等など)と思うので、いい機会だと思う。そこで、せっかく行くのなら、生ものは我慢して未だ食していない(生食禁止を続けている)が、お酒くらいは気持ち良く飲みたい。先生は何故か、きょうだい3人(全員)がそろって行く事を確かめられ、気のせいか少し安堵の色を浮かべられた様に見えた。そして、いつもの様なお酒に関しての注意は特に言われなかった。もしかしたら、私の耳が、都合のいい様に調節して聞こえなかっただけかもしれないが……?!

【血液検査の結果】11/17:
WBC(白血球数) 3.8、HGB(ヘモグロビン) 12.2、PLT(血小板数) 189、
GOT(AST) 106(高)、GPT(ALT) 137(高)、γ-GTP 69(高)、LDH 247(高)、AMY 153(高)、P 4.6(高)、K 5.4(高)、CyA(シクロスポリン) 25未満

2008-11-27

2008/11/17 (月) 通院記録1 耳鼻咽頭科受診

 体調はいつも通り、こむら返り(leg cramp)や喉痛の他に、喉のイガイガと喉奥から何か白い物が出てくる(2~3日に1回位の割合)のも相変わらず。さすがに気持ち悪いので色々と調べたら、この症状と一致しそうな記事と写真を見つけた。どうやら膿栓(Tonsillolith;tonsillar crypt)というものらしい(Wikipedia『膿栓』)。俗に臭い玉・くさい玉といって、非常に臭いそうだ。私はどんなに鼻を近付けてみてもそんなに臭いとは思わなかったので、試しにまた出てきた時に指で潰してみて嗅いでみたが、確かに少し臭いにおいがした。昔ニキビが潰れた時のあのにおいに似ているかもしれない。ただ、その他色んな記事に書かれているほど強烈に臭い(悪臭がする)と感じないのだが…。

 この実際に喉の奥から白いものがどんな物かを前回の通院記録から再掲すると、『ゴマ粒大の白い塊で、食べカスでもなく、水に入れると、沈み、脂肪分でもなさそうで、余りふやけたリボロボロにほぐれたり水に溶ける事もなく、爪楊枝でつついても変形する訳でなく結構しっかりとしていて、ゆで卵の白味位の固さというのが一番イメージに近いだろうか』

 少し見苦しいが、写真を撮ったので、載せておく。順に喉奥(舌の根元位)に白い物体の頭をのぞかせている所、何度も咳をしてたくさん出てきた時の写真(拡大写真)、指に載せた状態(だいたいこれ位の大きさである)、放置していて乾燥した時の状態(拡大写真:薄茶色で、半透明になる)。

 ちなみに膿栓ならば、健康な人でも普通に持っていて、病気ではないそうだ。それにしても、入院する迄、こんな物が出てきた事もなかったので、膿栓だなんて、ある意味、テンションが下がってしまう。それに、退院前後から気になっていた、『この頃、口臭がする? 少しきつくなってきた??』というのも、もしかしたらこれが原因だったのかもしれない。(匂いに過敏になってきたというのもあるかもしれないのだが……)

 さて、午前中は前回予約して貰っていた耳鼻咽頭科を受診した。お初にお目にかかる女医さんに、喉のイガイガ感が最近少しだけ多くなってきて、時々ゴマ粒位の大きさの白い物体も出てくると説明し、デジカメ写真を見て貰うと、果たして、これは膿栓であった。口臭(halitosis;bad breath)がする様な気がするのにも関連があるという。

 喉を診て貰うと、「ああ、膿んでますね (と聞こえた??) 膿栓に間違いないですが、ご自分で無理に取ったりしないで下さいね」との事。念の為に、膿栓を一部喉奥から採取して、検査して貰う事になる。膿栓対策としては、口をこまめにすすぐとかイソジンでうがいをするのがいいらしい。喉奥から白い物が出てきて以来、なんだか気持悪いので、久々にイソジン(Isodine)のうがいを(自主的に)再開していたが、毎食後に増やす事になった。

 右頬の裏にも白い物が最近出来たというと、触診(palpation)もされ、少し硬いのでこちらは膿栓ではなさそうとの事。こちらは何なのか不明で、取り敢えず、デキサルチン軟膏(Dexaltin Ointment)を塗って様子を見る事になる。この軟膏は入院時に処方された事があるのだが、塗り方が少し面倒である。それもあり、こちらは就寝前に1日1回の塗布でいいと言われ、次回受診時の状態を見て、場合によっては細胞診(cytodiagnosis)をするかもしれないという話になった。

 嚥下異常の話もしたが、耳鼻咽頭科は初診という事もあり、先生にもすぐには原因が分からなそうであった。「私は骨髄移植(bone marrow transplantation;BMT)を受けましたが、そのGVHDで粘膜系の障害が出る事が多いそうなので、それが関連しているかもしれないと言われてます」と話すと、興味深そうに話を聞かれ、何やらカルテに書き込まれておられた(PC入力)。

 膿栓はごく普通のものらしいが、私の主治医(血液腫瘍科)には何だかわからず、耳鼻咽頭科の先生はGVHD(移植片対宿主病;graft-versus-host disease)の一般的だと思われる粘膜系の障害の話を興味深く聞かれる… 患者側からすると、お医者さんは何でも知っていると考えがちだが、案外、専門分野が違うとこういうものらしい。そう自分では分かっているつもりだが、他科を受診する時は、(この先生の診断の参考になったのかどうかは知らないが)念の為に話してみるのも必要だとは感じた。

 話はそれたが、嚥下異常の原因を調べる一つとしてなのか、先生は甲状腺が腫れていないか、首を触診されてから、念の為にエコー検査も受けてみましょうと、予約を取って下さった。甲状腺エコー検査は来月下旬の予約になったが、膿栓の検査結果は来月初めに予約している骨密度(bone density)検査の受診日にはもう出ているので、聞きに来て下さい、との事。甲状腺(thyroid gland)は首の前面中央で、男性なら、喉仏(のどぼとけ)の下あたりと書けばよいだろうか。大切な内分泌腺の一つである。どういう関連があるのか知らないが、またまた不思議な部位のエコー(echo)を受診する事になったものである。

 さて、せっかく耳鼻咽頭科を受診しているので、右耳がボーっとする(数分から数十分持続する、但し最近治まっている)事があったのだが、と話してみたら、ささっと耳の中も覗いて下さり、「綺麗な鼓膜をしてますよ」といわれた。結局、見た目での原因は分からなかったのだが、『自分は鼓膜が綺麗なんだ…』と、内心、意味もなく嬉しく感じている、相変わらず単純な自分がいた。

2008-11-14

2008/11/11 (火) 難しい見舞いの言葉

 ドラマ『白い影』が再放送されていて、久しぶりに見ている。原作は渡辺淳一の「無影燈」で、かつて母に勧められて読んだ覚えがあるが、昔の事なので、詳しい内容はあまり覚えていない。ただ、自ら医者という経歴を持つ渡辺淳一の医療を扱った小説は、非常に良く出来ているという母の言葉通り、医療を題材にした作品は、どれも面白かったという記憶はある。

 物語は、若い医師が、主人公である直江医師のやり方・考え方に反感を覚えながら、次第に直江医師の人間性に惹かれていくのだが、実は直江医師自身末期癌に侵されている事を隠して医師として患者の治療に当たっている、というストーリである。物語の伏線として、ある末期癌患者が登場するが、どれだけ病状が悪化してきても、直江医師は患者に癌(cancer)で余命幾ばくもない事を告知せず、「悪い所は全て取り除きました」といって接し続ける事に、若い医師の方は、何故本当の事を患者に教えないのかと反発しているという所があった。昔は「癌=死」というイメージが強かった。現在では癌の治癒率が高まり、癌告知はかなり多くなった様に思われるが、原作が書かれた当時は、確か、医師が患者に癌告知するか否か、深刻な問題であった時代だったと思う。そのTV版を漫然と見ていたのだが、ふと、次のセリフが耳に留まった。

 若い医師がその末期癌患者と会話を交わし、(取り敢えず)元気そうなのを確認してから、「頑張って下さいね」といって病室を去ろうとした時、患者がぽつりと「直江先生ならいつも『大丈夫ですよ』と声掛けをして下さる。」「病院の人はみんな、頑張れ頑張れというが、患者は皆、言われなくても、みな頑張っているんですよ」と言われ、その言葉に若い医師がハッとする、そんな場面であった。

 これと似た話は、時々聞く事がある。例えば、「がんばって」と言われるより、「辛いね…、苦しいんだね…」と相槌を打ちながら、話を聞いてくれた人がいて、辛さが和らぐ程とてもうれしかったという話も聞いた事がある。もちろん、十人十色という言葉がある様に、この「がんばって」という言葉を励みに闘病に励まれる人も多いだろうから、全てにおいてこの言葉を悪いと考えているのではないが、この様に「頑張って」と言われるのが辛いという話は少なくない様だ。これが別に病人に限った事ではないと知ってからは、不用意に「がんばって」という言葉を使わない事にしようと思う様になった。しかし、医者でもない私が「大丈夫ですよ」とか「大丈夫、大丈夫」等と声をかけるのも、なんだか無責任な感じもするので、状況をよく見極めた上で、その言葉を使っていいかどうか判断した方がいいかもしれない。

 晩年の母が時折「見舞いに来てくれる人の心遣いは嬉しいが…、皆が皆、『元気そう』といってくれる気持ちも分からなくないではないが…、この何とも言えない痛さ、だるさというのを本当に理解してくれる人は少ない…、時々何ともやりきれなくなる」といった内容をぼやいていた事がある。まだ癌になる前の、別の病気での自宅闘病中の事である。もちろん母はその事をわざわざ見舞いに来てくれる人にそんな事を言う気もない人で、私にも心配かけまいと、簡単に弱音を吐かない人であったが、余りに痛みが続くらしい時等に、つい、ぼやきの様に私に話す事があった。「この痛い、というのは表面(顔・表情など)から見えないから仕方がないけれど…」と。この話を聞いて、当時頭では理解していたつもりだったが、自分も病気をして以来、まだまだ理解の度合いが足りなかったなと感じる。副作用(side effect)といえばいいのかGVHD(移植片対宿主病;graft-versus-host disease)と考えればいいのかよく分からない、この持続する痛み(それでも母が経験していた痛みと比べると、はるかにはるかに軽いと思われる)に悩まされる様になって初めて、今なら、もっと母の気持ちを理解してあげられただろうに、と思ってしまう。だから、『元気そう』という言葉も不用意に使わない様にした方がいいなと思っている。でも、そうなるとどんな励ましの言葉があるだろうか、なかなか難しい…。

 「頑張って」とか「元気そうで良かった」という言葉は、心底心配してくれている人が、見舞った相手の元気そうな顔を見て安堵して、心から喜んで発してくれるお見舞いの言葉なのかもしれない。私も入院中から現在に至るまで一杯かけて貰った言葉で、わざわざ見舞ってくれた事が嬉しく、ありがたく受け止めていた。ただ、どうしても嫌な言葉があった。「前向きに頑張って」とか「前向きに考えよう」という言葉だ。私を励ますつもりで発せられた言葉とは十分に分かってはいるのだが、こう言われると、なんだか自分が病気に対して後ろ向きで、治療にもちゃんと向き合っていないと言われている様な気がして、内心、耐えられなかった。日々体が不自由になる母の為にも、一日でも早く退院出来る様にと必死に励んでいるのに、それを全否定されている様に感じてしまうからだ。さすがに、一番自分の状況を理解してくれている筈の母からこれを言われた時ばかりは、つい毒づいてしまった事がある。母をいたわるどころか悲しませてしまった事が今でも悔やまれる。もしかすると、思いもかけない病になってしまった娘の事を、絶対に治ると母自身“前向きに前向きに…”と言い聞かせながら日々お祈りしてくれていて、それが言葉になって出たのかもしれない…。

 その一方で、今や「元気?」「大丈夫?」等と聞かれる立場になった自分はというと、その心配してくれている心遣いに対して、いつも感謝の言葉を返し、要らぬ心配を掛けない様にしている。ちょっと話はそれるが、関西には便利な言葉があり、例えば「儲かってまっか(もうけている・かせいでいる)?」と訊かれたら「ぼちぼちですわ」というのがある。この「ぼちぼちです」のイントネーション(発音や言い方)次第で、『儲かっている』と『かなり苦しい状況(儲かっていない)』の両方を表現出来る。なので、かなり近しい人から「元気にしてる?」等と聞かれた時は、よく「ぼちぼちやってます」(私の場合、「ぼちぼち無事に暮らしています」という意味合いを込めている)と返事する事も多い。

  未だ、誰かを見舞う時等、どの様な言葉を掛けたらよいか、悩ましい所であるが、直江先生が言った「大丈夫ですよ」という言葉、何とも心に響く思いがした。

2008-11-11

2008/11/07 (金) Hyper-CVAD / High-dose MTX-Ara-C療法の治療成績

 今日、成人ALL(acute lymphocytic leukemia;急性リンパ性白血病)におけるHyper-CVAD / High-dose MTX-Ara-C療法の治療成績という記事を見つけた。これは私が入院中に受けたのと同じ名前の治療法である。この記事を見るまで、私はHyper CVADという治療法を受けているとずっと書いてきたが、正式には『Hyper-CVAD / High-dose MTX-Ara-C療法』を受けてきたと書き直した方が良いかなと思った。

 入院当初の説明では、化学療法(chemotherapy)は計8回あり、それが終わったら、移植(transplantation)を考えた方が良いと言われていたが、全く同じ化学療法を8回受けるのではなく、実際は最初に【Hyper CVAD療法】を受け(1クールという)、それを終了すると次(2回目)は【High-dose MTX-Ara-C】という別の薬剤を扱った化学療法を受ける(1クール)。ここまでで1セット(即ち、合わせて2クール)である。この繰り返しで計4セットこなすと、合計8回の化学療法を終える事になるのだ。それは理解していた。

 この化学療法名は使われている主な薬剤の頭文字を使っている様で、詳しく書くと、Hyper-CVAD (hyperfractionated cyclophosphamide, vincristine, Adriamycin, and dexamethazone) / high dose MTX-Ara-C (high dose methotrexate and cytarabine)と、とにかく長い。確かに前半は「ハイパー・シー・ヴァッドを行ないます」と聞いた覚えはあるが、後者に関しては「メソトレキセート・アラ・シー」等という言葉ではなく、「二つ目の化学療法をします」としか聞いた覚えがない。その為、この化学療法の名称が「Hyper C-VAD」なのだと勘違いしていたのかもしれない。

 ちなみに私の場合は、化学療法最終段階(丁度、末期癌が発見された母の入院やごだごだ等が急に起こった時期にあたるのだが)で、それまで順調に経過していた私がひどい肺炎(pneumonia)を起こしてしまった為、先生は私に8回目にあたる最後の化学療法【High-dose MTX-Ara-C】を受けさせる事を断念され、骨髄移植(bone marrow transplantation;BMT)を急がれたという経緯がある。

 さて、今回見つけた記事は、自治医科大学医学部紀要で、ここで成人のALL患者(*)に実施された、Hyper-CVAD / High-dose MTX-Ara-C療法の治療成績である。この抄録は2005年末に発表されており、その治療成績は2000年から50ヶ月分(4年2ヶ月)の統計であるが、無病生存率42%、全生存率(**)85%と良好であったという。発表時点で、いわゆる5年無病生存率迄は出ていないが、これを発表した病院で以前実施されていた治療法での長期生存率(多分、5年全生存率と思われる)が35-40%というから、それに比べると非常に効果のある治療法に思われる。この治療法は、寛解期の早い時期に、移植可能な患者には移植する事を前提としている様なので、その上での成績でもあると考えられるかもしれない。
*一般に、成人ALLと小児ALLとは区別して考えられている様だ。自分はいつも不思議に思っているのだが、同じALLでも、その治癒率は成人と小児との間に大きな開きがある。そして治療法も異なると主治医から聞いた事があるので、ここでの治療成績は、成人のものであって、子供のALLの場合とは別物と考えた方が良いと思われる。
**全生存率というのは、恐らく無病生存者と、治療後、何がしかの病気を発病したとか、具合の悪い人とかも全て含んだ、要するにその時点で治療後生きている全ての人の割合を指しているのだと思う(もしかしたら再発してもとにかく生存している人も含んでいるかもしれない)。


 私が治療を受けた病院もこの同じ治療法を導入しており、入院当初、4年迄の成績しか出ていないと先生から言われていた記憶がある。自分が入院したのは2006年3月なので、主治医から受けた説明とこの結果はほぼ同じの様な気がする。その当時私は、比較的新しく開発された治療法の一つなのだと理解していた。そして、血縁でHLA(骨髄の型;組織適合抗原:Human Leucocyte Antigen)の一致する人がおれば、移植する方向で治療にあたるともいわれていた点も、この抄録の治療方針と一致している様に思われる。

 参考までに、入院中主治医から訊いた話なのだが、日本の病院では、成人ALLの患者にこのHyper-CVAD / High-dose MTX-Ara-C療法を採用するグループと、JALSGというグループでの治療法を採用する病院の2つに大別されるらしい(もちろん、他の治療法もあるそうだが)。Hyper-CVAD / High-dose MTX-Ara-C療法は、外国で開発された治療法、JALSGは日本のグループが研究開発した治療法、との事である。

 私はこの2つの治療成績を比較するつもりはない。どの病院もきっと、これがベストと思われる治療を行なってくれていると思うからだ。特に初発の急性白血病の場合、大抵は緊急入院、即、治療開始となる事が多いと思う。すると、自然と入院した病院が採用している治療法になる流れとなるから、治療法選択の時間が無いと考えてもいいのではないだろうか? それに、病名宣告を受けたとしても、先ずはどんな病気なのかを知るのに手一杯で、どの治療法がいいか、等と悠長に調べている時間はないだろう。それが可能な人は最初の治療開始前に、初めから自分の納得いく治療を実施している病院へアクセスするがベストだと思う。

 治療成績も気になる所だろうが、緊急を要し、かつ長期にわたる治療となる病気なので、多分この状況で大事なのは、入院した病院の先生を如何に信頼出来るか、という事の方が大きいかもしれない。既に治療が開始されたが、どうも病院や先生に信頼が置けないと思ったならば、取り敢えず外出許可が出る位の状態になったら、転院する方向を考えてもいいかもしれない。しかし、一旦開始された化学療法を途中で変えるのでは無く、同じ化学療法を行なっている病院を探して移った方がいいのではないかと思う。というのは、運悪く、早期に再発(recidivation)してしまった場合、同じ薬剤を使った化学療法では白血病細胞(leukemia cell)をやっつける効果が余り期待出来ない為、他の化学療法を選択する事になると、かつて先生から言われた事があるからだ(寛解後5年位経過した後の再発ならば、再度同じ化学療法も検討の余地があるらしいが)。つまり、再発の場合、その薬剤耐性の白血病細胞であると考えられるので、違う薬剤を使った治療を検討する事になるらしい。だから、もし治療途中で転院し化学療法も別なものに変えてしまったのなら、万が一にでも早期再発した場合の、次なる治療法の選択肢が少なくなってしまうのではないかと思うからである(詳しい事は主治医にご相談下さい)。それに、自分に合っている治療法が何なのかなんて、比較する事等出来ない。それより、先生と病院を如何に信頼出来るかの方が、人間本来がもつ治癒力を高められそうな分、いい様な気がする。

 話がそれてしまったが、この化学療法の治療成績が出ている抄録が掲載されたアドレスを、参考資料として、最後に記載しておく。

 奇しくも明日は移植後丸2年、入院から起算すると2年7カ月以上が経過した事になる。幸い、再発せずに無事経過している。運もあるかもしれないが、この治療法は私にはよく合っていたのかもしれない。最後まで心配してくれていた母にも、心の中で、「無事ですよー」と感謝の祈りを捧げる一日である。

参考:『当科における成人ALLに対する地固め療法としてのHyper-CVAD / High-dose MTX-Ara-C療法の治療成績 (Consolidation therapy of adult acute lymphoblastic leukemia with Hyper-CVAD / high dose MTX-Ara-C)

2008-11-06

2008/10/27 (月) 通院記録 肝機能値上昇止まる

 体調はいつも通り、のど痛や、首・腰・手足指関節痛(arthralgia)、だるい・しんどい等など。。。今回は脚のつりの他に、ひどいこむら返り(twist、leg cramp)が頻繁に起こり、これは起こるとかなり辛い。背腹と首(うなじ)に出来たGVHD(移植片対宿主病;graft-versus-host disease)と思われる発疹(exanthema;eruption)・痒みは10月20日頃より治まっている。ムカムカや嚥下異常はしばしば、また以前も書いたが、喉の奥に何か引っ掛かった感じも相変わらずで、口をすすぐ時等に何か出る感じも続いており、一度、実際にそれが何かを見てみたら、食べカスではなかった。その後、何度か口をすすいでいて“何か出てきた”と感じる度に、指に取ってみると、やはり同じ様な白いものであった。一体何なんだろう…? これに関しては、先生にこれが何なのか教えて貰う資料として、デジカメに撮っておいた。

 そして早速、今日の診察で、のどに何か引っ掛かった感じが続いているが、実際に喉の奥から白いものが(複数回)出てきたという話をし、あらかじめ撮っておいた写真を先生に見て貰った。この白いものは、ゴマ粒大の白い塊で、食べカスでもなく、水に入れると、沈み、脂肪分でもなさそうで、余りふやけたリボロボロにほぐれたり水に溶ける事もなく、爪楊枝でつついても変形する訳でなく結構しっかりとしていて、ゆで卵の白味位の固さというのが一番イメージに近いだろうか。

 そんな私の説明を訊きながらデジカメ写真を見た先生も、「何でしょう?」と分からない様子。免疫力が低下した時等に起こると聞いた口内に出来るカビと言われるかもしれないと思っていたのだが、違うらしい。こんなものは出来ない様だ。「これは耳鼻咽頭科を受診して貰いましょうか」と先生。今日はもう受診出来ないとの事で、次回の診察日に合わせて、予約を取って貰った。

 さて、問題の肝機能(liver function)検査値であるが、GOT(AST)はやや下がり、GPT(ALT)は(少し上がったが)上昇の勢いが緩やかになっていた。アミラーゼ(AMY)等、微妙に上昇したのもあるが……。GVHDによる肝機能異常と考え10月6日にネオーラルを50mg/日に増量した効果が現われたという所である。先生も「今回、早めに免疫抑制剤(immunosuppressant)のネオーラル(Neoral)を再開したのが効いたみたいですね」と言われつつ、少し戻り具合が悪いと考えておられるのだろうか(それとも、ネオーラルが現在の50mg/日という量ならミコシストも飲んでいる方がいいのだろうか)、「う~ん……、薬減らすどころか増えてしまいますが、ミコシストも再開してみましょうか……」と言われる。私は「良く分からないですが、のどの白いものがなんなのか分かるまで、ちょっと…」、つまりミコシスト(Mycosyst)再開で、白いものが消えてしまっちゃうんじゃないか、そうなると結局何だったのか分からなくなるのではないかと暗に言ってみると、先生も了解して「耳鼻咽頭科の結果を待ちましょうか」という事になった。

 次回は3週間先だが、それ位ならミコシスト無しでも今の私の状態なら大丈夫だろうと、自分の中では考えている。

【血液検査の結果】10/27:
WBC(白血球数) 4.0、HGB(ヘモグロビン) 11.7、PLT(血小板数) 204、
GOT(AST) 126(高)、GPT(ALT) 166(高)、γ-GTP 80(高)、LDH 253(高)、AMY 165(高)、P 4.6(高)、